2023.04.11
DXリスキング助成金について解説、申請可能な事業者や対象となる訓練とは
DXを推進する人材の育成では、社内のあらゆる部署で技術を再習得するリスキリングが求められます。人材育成には教育のための投資が必要ですが、東京都ではDXリスキリング助成金を設置しています。DXリスキリング助成金の対象となる業界、訓練、進め方など概要を解説します。
リスキリングを進めるために必要な資金
DXの推進には、先端技術の理解はもちろん変革を担う人材育成が重要です。技術の変化に追従するだけでは不十分であり、理想としては、社内のあらゆる部門において先端技術を駆使して変革を仕掛ける人材が求められます。
先端技術を理解してビジネスに活用できるDXの人材育成のために、スキルの再習得を目的としたリスキリングが注目されるようになりました。高度なスキルを持った人材を育成するには、社外の専門的な教育機関やトレーニングを利用するとよいでしょう。ただし、外部に教育を委託する際にはコストがかかります。
東京都ではDXリスキリング助成金を設置しています。DX補助金などとともに積極的に活用したい助成金です。
DXリスキリング助成金とは
DXリスキリング助成金(中小企業人材スキルアップ支援事業)は、中小企業のDX関連の人材育成の促進を目的とする助成金です。従業員にDX関連の職業訓練を行う経費の一部を支援します。集合教育のほか、オンラインによるeラーニングの支援も受けられます。
これまでDXリスキリング助成金は東京都 産業労働局雇用就業部で受け付けていましたが、令和5年4月1日より公益財団法人 東京しごと財団に窓口が変更しました。令和5年度の申請書の受付期間は、令和5年4月1日(土)~令和6年2月29日(木)です。
助成額は、助成対象経費の3分の2、上限は64万円です。ただし、ひとつの事業者が申請できるのは1回のみと定められています。
DXリスキリング助成金を申請可能な事業者
DXリスキリング助成金を申請可能な事業者は、東京都内に本社や事業所(支店・営業所等)の登記があり、要件に該当した中小企業もしくは個人事業主が対象です。税理士や社会保険労務士などの士業法人も含まれますが、外国法人は申請できません。
要件としては、訓練に必要な経費を従業員に負担させていないこと、助成を受ける訓練について国または地方公共団体から助成を受けていないことなどがあります。
詳細については、募集要項でご確認ください。
参考:「令和5年度 DX リスキリング助成金 募集要項(PDF)」
また、業界ごとに申請できる法人の条件が次のように定められています。
小売業・飲食店
小売業・飲食店で応募可能な条件は以下の通りです。
- 資本金の額または出資の総額:5,000万円以下
- 常時使用する従業員数:50人以下
小売業には、各種商品小売のほか、織物・衣服・身の回り品、飲食料品、機械器具などが含まれます。ネットショップ、通信販売、カタログ販売などの無店舗小売業も該当します。飲食業には、持ち帰り・配達飲食業も対象です。
サービス業
サービス業で応募可能な条件は以下の通りです。
- 資本金の額または出資の総額:5,000万円以下
- 常時使用する従業員数:100人以下
サービス業に該当する法人は、広告や学術研究のサービス業のほか、宿泊、洗濯・理容・美容・浴場、娯楽、駐車場や物品賃貸、廃棄物処理など多岐に渡ります。学校教育や学習支援、医療や社会保険・社会福祉・介護事業も含まれます。
卸売業
卸売業で応募可能な条件は以下の通りです。
- 資本金の額または出資の総額:1億円以下
- 常時使用する従業員数:100人以下
卸売業は、各種商品卸売のほか、繊維・衣服、飲食料品、建築材料・金属鉱物材料、機械器具などが含まれます。
その他の産業
その他の産業には、小売業・飲食店、サービス業、卸売業以外の業種すべてが当てはまります。応募の条件は以下の通りです。
- 資本金の額または出資の総額:3億円以下
- 常時使用する従業員数:300人以下
業種の分類は、日本標準産業分類の最新の分類で確認するようにしてください。申請時には会社案内の添付が必要ですが、会社案内の内容によっては業種の修正を求められることがあります。
DXリスキリング助成金の対象となる訓練
続いて、どのような訓練(トレーニング、研修)がDXリスキング助成金の対象になるのか解説します。原則として、業務効率化・生産性向上、集客・販路拡大、新製品・新サービスの開発、組織力・営業力の強化を目的とした訓練です。
具体的な項目を3つに分類して解説していきましょう。
人工知能やメタバースなど先端技術
AIの技術革新がめざましく、ビジネスに影響を与え始めるようになりました。DXリスキリング助成金では、AI全般のほかデータサイエンスも訓練の対象です。メタバース関連では、XR(VR、AR、MR、SR)があり、UI/UXデザインも対象であることから、インターフェースの設計を学ぶときにも助成金が役立ちます。ブロックチェーンも挙げられています。
ファーストムーバーアドバンテージ(先行者利益)は経営戦略の王道のひとつですが、どの企業よりも早く先端技術のリスキリングを行うことで、競合企業を制する優位性を獲得できる可能性が高まります。
業務効率化関連
RPA(Business process automation:ビジネスプロセス自動化)、BPR(Business Process Re-engineering)といった業務を改革する技術のほか、コンピュータシステム、クラウド、セキュリティ、プロジェクトマネジメントなどが対象の訓練です。
DX推進を掲げている企業の多くは、業務効率化に取り組んでいます。生産性向上を目的とした訓練項目は、自社のテーマに合わせて選択するとよいでしょう。また、プロジェクトマネジメントのような課題を分析、可視化してチームを管理する技術も重要です。
経営戦略を含むビジネス関連
DX推進は業務効率化だけでなく、新規ビジネスの創出にも可能性があります。このとき先端技術の理解はもちろん、ビジネスを戦略的に考えるためのリスキリングも必要です。したがって、DXリスキリング助成金では、基礎理論、技術要素、開発技術のほか、経営戦略も対象項目として挙げられています。
DXリスキリング助成金における教育の実施方法
DXリスキリング助成金は、集合教育、eラーニングのどちらも支援の対象です。eラーニングは、オンライン会議システムを使った双方向の講座を含みます。訓練場所は職場と自宅のように場所を問いませんが、訓練時間の8割以上の出席が必要です。
企業や大学、専門学校、各種専修学校といった教育機関の1講座の時間と料金が明示されている単講座のほか、企業の課題に応じたオーダーメイド講座も対象になります。
単講座では、訓練時間が20時間以上であることが条件です。複数の講座を組み合わせても構いません。ただし、定額制で複数の講座を受講できるサブスクリプション形式のトレーニングは除きます。
自社の課題に対して独自に企画して外部講師を招くオーダーメイド講座は、1時間あたり10万円以内、訓練時間が6時間以上の条件があります。
DXリスキリング助成金の申請フロー
DXリスキング助成金の申請から振込までのフローを3つの段階に整理します。助成金の全般にいえることですが、実施後に報告を行い、審査を受けたあとで助成額が確定し、振り込みの流れになります。後払いであることに注意が必要です。
交付申請、審査・交付決定通知
DXリスキリング助成金の申請は、助成の対象となる訓練開始予定日の 1か月前までに提出が必要です。申請書類を公益財団法人東京しごと財団の窓口まで送付します。
申請時の書類には、交付申請書のほか、まず商業・法人登記簿謄本(履歴事項全部証明書)、印鑑証明書、法人事業税・法人都民税の納税証明書と、会社案内や組織図などが必要になります。次に、訓練計画、受講者名簿、受講する講座の資料を用意します。
詳細は募集要項でご確認ください。
参考:「令和5年度 DX リスキリング助成金 募集要項(PDF)」
注意事項として、書類はすべてコピーを取っておきます。また送付した申請書と書類のすべて不備がないことが確認された時点で、申請書の「正式受領」になります。したがって、書類が不足して再提出しなければならない状態では受領とみなされません。審査結果は書面によって通知されます。
訓練の実施、実施報告書作成、審査と助成額の確定通知
訓練の実施後に実施報告書を提出します。8割以上を受講していることを確認できる書類、修了証書などが必要になります。eラーニングの場合は、修了証書のほかに、受講中の受講者名が確認できる画面のスクリーンショットなどの提出が必要です。
企業独自の訓練としてオーダーメイド講座を受講した場合は、以下のすべてを提出しなければなりません
- 出席簿(受講者の8割以上受講がわかること)
- 講座実施がわかる書類(研修実施報告書、完了届など)
- 訓練実施時の写真(講師と受講者が入っているもの)
- カリキュラム、講座のテキスト(講座内容がわかる書類)
助成対象訓練と経費の支払いがすべて終わったときに、報告書を作成して郵送で送付します。報告書の審査の結果によって助成金が確定しますが、交付決定額と助成金確定額が異なる場合があります。審査によっては、希望通りの助成金を受け取ることができるとは限らないことに注意しましょう。
助成金申請書提出、助成金振込
最終的に助成金請求書兼口座振替依頼書を提出して、助成金が振り込まれます。これで完了です。このようにDXリスキリング助成金は、訓練の計画、実施、結果報告を期間中に遂行し、審査によって交付されます。
まとめ
DX推進では、社内の人材を変革することが成功のカギを握っています。リスキリングは新たな人材採用のコストを抑制するとともに、社内文化を大きく変える可能性を持っています。
人材教育は短期的に成果が出ない場合がありますが、先行投資は重要です。しかし、潤沢な予算を確保できる大企業に対して、中小企業は限られた予算を効率的に使う必要があります。したがって補助金や助成金をうまく活用すべきです。
補助金や助成金の活用にあたっては、さまざまな視点から経営者の判断が求められます。外部にコンサルティングを依頼することも検討するとよいでしょう。
この記事を書いた人
KJ@DXコラム編集長
エンジニア出身で現在は現在は営業窓口全般を担当しています。 お客様とのファーストタッチのタイミングからスピーディーに技術的な原因とその対応を行います。 DXの取組に興味を持たれたお客様と一緒になってゴールまで走り抜ける経験を2025年まで培っていきたいと思っています。 このコラムで2025年までの軌跡をお客様と作っていければと思っております
関連記事
2024.05.22
生成AIによる業務効率化において「自社データの活用」が一つのキーワードとなっています。生成AIはインターネット上に存在す…
2023.05.29
AIを筆頭とした先端技術がめざましい発展を遂げ、ビジネス環境が大きく変わりつつあります。リスキリングは、変化の激しい時代…