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  3. 具体的な成果や効果が見えにくいDX推進、指標はどう立てるべきか?

DX推進にあたって「具体的な成果や効果が見えにくい」という課題をあげている企業が少なくありません。なぜ成果や効果が見えにくいのか、労働生産性の基礎に立ち返って考察するとともに、DX推進指標、DX認定制度を取り上げます。

DX推進の成果や効果が見えない3つの要因

独立行政法人 中小企業基盤整備機構の『中小企業のDX推進に関する調査 アンケート調査報告書 令和4年5月』によると、DXに取り組んでいる企業の8割超(82.3%)が「成果が出ている」「ある程度成果が出ている」と回答しています。

参考:『中小企業の DX 推進に関する調査アンケート調査報告書 令和4年5月(PDF)』

この回答だけから判断すると、中小企業におけるDXは順調に進展しているかのようにみえます。ところが、具体的な成果や効果が見えないことからDXを進める課題を抱えている企業が少なからず存在するようです。 上記の調査では、「具体的な成果や効果が見えない」ことがDXを推進する課題とする回答が全体の24.1%ありました。

そもそもDXの成果や効果とは何でしょうか。なぜ成果や効果が見えにくいのか、考察します。

守りと攻めのDXでは成果や効果が異なる

企業のDXには「守りのDX」と「攻めのDX」があると考えられます。ここで守りのDXは、業務効率化やコスト削減を主体としたデジタル化を指します。攻めのDXは、先端技術を利用とした新規ビジネスの創出です。

守りのDXと攻めのDXの2つでは、成果や効果が異なります。守りのDXは、効率化によって短縮した時間、コスト削減がゴールといえます。一方で攻めのDXは、新規サービスによる収益、競合企業や市場に与えたインパクトが求められます。

このようにDXは広範囲に渡り、標準化したモノサシで測ることが困難であることから、成果や効果を判断しにくいといえます。

DXは定量的な成果が見えにくい

さらにDX自体が定量的な評価がしにくい側面があります。多くの経営者は、まず中長期的な経営計画においてDX推進を位置づけます。しかし、ビジョンやミッションだけでは、成果や効果を正確に測定できません。定量的な指標が必要であり、客観性のある数値によってビフォア・アフターを測定して評価する必要があります。

たとえば作業時間の短縮でDXを評価する場合、純粋にDX推進によって達成した成果といえるでしょうか。優秀な社員が入社して大幅に改善されたというように、別の要因や複数の要因が絡み合って成果を出している場合があります。

5点評価のような形で効果測定をするときは、各人の主観から点数化すると部門や担当者によって評価のばらつきが生じることも問題です。

成果や効果を見ようとしていない

別の視点からみると、成果や効果が見えないのではなく「見ようとしていない」問題も考えられます。

経営者がDXを自社の重要なミッションとして位置づけていないと、社員は革新的なチャレンジを軽視しがちになります。「DXに取り組んでも意味がない」として意図的に評価を下げたり、逆に部門や個人の業績評価を上げて社内的なアピールに使われたりするような状態が生じるでしょう。社長から叱責されたくないため、成果を報告しない社員が出てくるかもしれません。

DX自体の問題とともに、社内風土が成果や効果の見え方を歪めてしまうことがあります。失敗を許容し、しっかり成果をみつめる姿勢が必要です。

DXの達成度を判断するための生産性測定の基礎

ここから「労働生産性は何か?」という経営の基礎に立ち返って、DXの労働生産性を考察していきます。

公益財団法人日本生産性本部では、ヨーロッパ生産性本部の言葉を引用して「生産性とは、生産諸要素の有効利用の度合いである」と定義しています。あらためて着目したいのは「度合い」つまり数量的な比率が基準であることです。基本的な生産性の計算式は以下になります。

生産性=アウトプット(算出)÷インプット(投入)

アウトプットを最大化することが生産性を高めます。逆に人材、労働時間、設備投資などのインプットを増加したにも関わらず、業務負荷の軽減や時間の短縮、収益などのアウトプットが増加しなければ生産性は低くなります。

生産性の3つの種類

生産性には、生産要素から労働生産性と資本生産性があります。DXで重視されるのは労働生産性です。労働生産性に焦点を当てると、以下の3つに分かれます。

  • 物的生産性
  • 付加価値生産性
  • 全要素生産性

物的生産性は、生産するモノの大きさ、重さ、個数を単位とします。全要素生産性は、広義の技術進歩率とみなされ、経済成長率のような伸び率で示されます。

さまざまなDXがありますが、一般的に着目すべき生産性は付加価値生産性といえるでしょう。付加価値生産性は、売上高から原価、営業利益、人件費などを差し引いた利益を対象とします。

付加価値生産性の計算方法

付加価値生産性は、1人あたりの生産性と1時間あたりの生産性として以下のような計算式に基づきます。付加価値額は、売上から原材料費、外注加工費など外部からの購入費用を除いたものです。

  • 1人あたりの生産性:労働者数÷付加価値額
  • 1時間あたりの生産性:労働者数×労働時間÷付加価値額

計算式としては労働者の人員を削減して付加価値を増大させることが理想ですが、減らした人員の分だけ労働時間が増えるのであれば、生産性が向上したとはいえません。

あまりにも基礎的な労働生産性の算出方法を取り上げましたが、この基本から次の結論が導くことができます。DX推進においてインプット(設備投資、人材投入など)を増加させても、アウトプット(成果、効果)を出せなければ、労働生産性を高めたとはいえないということです。

DX推進指標とは

既にご存知かもしれませんが、DXの成果や効果を測る指標のひとつとして「DX推進指標」があります。自社独自の指標の設定が難しいのであれば、DX推進指標を利用してみることをおすすめします。

DX推進指標は、2019年7月に経済産業省が作成した指標です。35項目によって自社のDX進行度を自己診断できるようになっています。現在はIPAが普及啓蒙および診断したデータの収集と分析を行っています。

DX推進指標の内容は、大きく次の2つに分かれます。

  • DX推進のための経営のあり方、仕組み
  • DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築

それぞれのカテゴリーで「定性指標」と「定量指標」が設定されています。経営者みずからが回答すべきキークエスチョンに加えて、幹部やITなどの担当部門と議論しながら回答すべきサブクエスチョンが設定されていることが特徴です。

詳しい解説としては、経済産業省の令和元年7月のガイダンス資料が分かりやすいので以下をご覧ください。

参考:『DX推進指標(サマリー)』令和元年7月 経済産業省(PDF)

DX推進指標の定性指標、5段階の評価

定性指標の内容として「DX推進のための経営のあり方、仕組み」では、以下の項目が設けられています。

  • ビジョン
  • 経営トップのコミットメント
  • 仕組み(マインドセット、企業文化、推進・サポート体制、人材育成・確保)
  • 事業への落とし込み

「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」では、さらに以下のようなシステムに絞り込んだ内容が取り上げられています。

  • ビジョン実現の基盤としてのITシステム構築
  • ITシステムに求められる要素
  • IT資産の分析・評価
  • IT資産の仕分けとプランニング
  • ガバナンス・体制

定性指標は、以下の5段階により成熟度を評価します。

  • レベル0:未着手
  • レベル1:一部での散発的実施
  • レベル2:一部での戦略的実施
  • レベル3:全社戦略に基づく部門横断的推進
  • レベル4:全社戦略に基づく持続的実施
  • レベル5:グローバル市場におけるデジタル企業

DX指標の定量指標

続いて定量指標として「DX推進のための経営のあり方、仕組み」では、次のような分類で測定の方法が示されています。

  • 研究開発:製品開発スピード
  • マーケティング:新規顧客獲得割合
  • 調達・購買:支出プロセスにおける効率性
  • 会計・経理:決算処理スピード、Cash Conversion Cycle、その他(スピード感)

「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」では、次のような定量指標があります。

  • 予算:既存の維持管理の予算と価値創出の予算の比率、3年後の目標値
  • 人材:事業の人材数、技術の人材数、人材育成の研修予算
  • データ:データ鮮度(リアルタイム/日次/週次/月次)
  • スピード・アジリティ:サービス改善のリードタイムと頻度、アジャイルプロジェクトの件数

全体的にスピードと効率性が求められている傾向にあります。また、人材育成に関する項目があることにも注目すべきです。

DX推進指標をもとに議論、ベンチマークレポートで評価

DX推進指標は、社内で検討すべき議題を整理するために役立ちます。社内の部門や担当者によっては、DXで重視したい項目が異なります。経営者や管理者と現場の認識にも差があり、取り組みにあたって温度差が生じがちです。こうした社内の認識や理解の溝を埋めて、全社的な共通認識を持つために、DX推進指標を活用するとよいでしょう。

また、DX推進指標の自己診断結果を提出すると、ベンチマークレポートを取得できます。このレポートによって、自社のどのDXが遅れているのか分析が可能になります。自社のDX推進の課題を客観的に判断するためにも、社外に目を向けることが大切です。

DX認定制度とは

DX推進指標とともに「DX認定制度」も成果や効果を明確化するために使えます。

DX認定制度は、情報処理の促進に関する法律」に基づき、国がDX推進の準備が整っている「DX認定事業者(DX-Ready)」を認定する制度です。経営者に求められる「デジタルガバナンス・コード」に対応し、認定を受けることにより社会的認知を高められます。さらに、税額控除のほか、中小企業では融資など支援が受けられます。

DX推進指標やDX認定制度をはじめ、東京都のDXリスキリング助成金など、さまざまな制度を利用することにより結果を出すことも検討するとよいでしょう。

まとめ

DX推進が成果や効果が見えにくい大きな要因は、定量的な指標を定めにくいことにあると考えられます。労働生産性の考え方に基づき、人件費の圧縮、作業時間の短縮、新規ビジネスの収益化など、数値化して成果を測定することが望ましいといえるでしょう。さらに、DX推進指標やDX認定制度など社外の制度も活用すべきです。外部に目を向けることによって、自社の進捗が明らかになることがあります。

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この記事を書いた人

KJ@DXコラム編集長

KJ@DXコラム編集長

エンジニア出身で現在は現在は営業窓口全般を担当しています。 お客様とのファーストタッチのタイミングからスピーディーに技術的な原因とその対応を行います。 DXの取組に興味を持たれたお客様と一緒になってゴールまで走り抜ける経験を2025年まで培っていきたいと思っています。 このコラムで2025年までの軌跡をお客様と作っていければと思っております

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