2023.04.11
DX推進は従業員満足度(ES)にどのように貢献するか
中小企業の経営者にとって、従業員の待遇改善やオフィス環境の整備は注力すべき課題のひとつといえるでしょう。従業員満足度(ES)の向上は、顧客満足度(CS)と業績の向上にも相関性があるといわれます。そしてDX推進は、従業員満足度の向上に貢献します。ここでは、DX推進が従業員満足にどのように貢献するか取り上げます。
従業員視点から考えるDX推進
DXの本質的な目的は、デジタルの先端技術により社会全体を豊かにするためにあります。不便さなどの問題を解決して生活の水準を上げ、人々が求めている理想や価値を実現します。ところが、企業でDX推進を行うとき、経営者はコスト削減の指標達成、あるいはビジョンの浸透に目を向けがちではないでしょうか。
間接的とはいえ、従業員が抱えている現場の問題を解消し、パフォーマンスを上げることが、事業を活性化して収益拡大につながります。そのためにDXがあります。こうした背景を踏まえて、従業員満足度の向上とDXについて考察します。
従業員満足度(ES)と顧客満足度は相関関係にある
「ESなくしてCS」なしと言われるように、従業員満足度は、顧客満足度さらに業績に反映されるといわれています。まずESとCSの生まれた背景を解説していきましょう。
ESよりも先にCSが重視されるようになりました。顧客満足度(CS、Customer Satisfaction)は、1980年頃に生まれた自社の製品やサービスを顧客視点から評価する指標です。1920年代になって、アメリカの管理学者ロバート・ホポックが従業員満足度(ES、Employee Satisfaction)を提唱しました。ESは給与などの待遇をはじめ、オフィスの環境、人間関係、福利厚生などに対する従業員の満足を測定します。
1990年以降になると、アメリカを中心に、顧客満足度、従業員満足度、そして企業の業績の相関関係について活発な研究が行われるようになりました。ジェームス L.ヘスケット他著による『カスタマー・ロイヤルティの経営: 企業利益を高めるCS戦略』では、従業員満足度と顧客満足度との間には99%の因果関係があることが示されています。
このように、顧客の満足度と従業員の満足度は別々に考えるものではありません。前提として顧客満足度と従業員満足度は相関関係があることを確認しておきます。
従業員満足度を上げるメリット
従業員満足が顧客満足に影響を与えることを述べましたが、一般的に従業員満足度を上げるメリットは以下の3つです。
- 生産性の向上
- 社内風土の改善
- 離職防止と人材定着
生産性の向上は、ホワイトカラーの職場で最も注力する目標のひとつです。また、社内風土が改善されることによって、従業員の離職率を低下させます。効率を追求するとともに人材不足に悩む中小企業としては、この2点において従業員満足度を上げることは重要といえるでしょう。
ただし、従業員満足の向上は、待遇や福利厚生を充実させたり、オフィスをきれいにしたり、表面的な改善だけでは達成できません。特にやりがいを求める優秀な人材に対しては、自己実現やモチベーションを考慮する必要があります。
従業員の満足のために何をすべきか
従業員満足度を向上させるために何をすべきでしょうか。フレデリック・ハーズバーグの概念に基づいて「衛生要因」と「動機づけ要因」の観点から考察します。
まず、衛生要因とは、満足度を阻害する不満の要素です。改善には以下のような項目が考えられます。
- 残業をゼロにする
- 給与を上げる
- オフィス環境をきれいに整備する
- 煩わしい人間関係をなくす
- 煩雑で面倒な仕事を軽減する
衛生要因の改善は、いわばマイナスをゼロにする改善です。一部の社員の満足度を上げることができますが、衛生要因の改善が満足度の向上につながらない場合もあります。したがって、次のような動機づけ要因の改善を考慮することが必要です。
- 教育制度を充実させる
- 仕事に対するやりがいを持たせる
- 正しく評価し、企業の一員として働く喜びを抱かせる
- 経営陣とミッションやビジョンを共有する
- 将来のキャリアを描けるようにする
優秀な人材は、動機づけ要因に対する満足を求める傾向があるといえるでしょう。
どのようなDXがES向上に貢献するのか
従業員満足を高める要件を踏まえた上で、次にどのようなDXが従業員満足度を向上させるか考察します。次の4つから取り上げます。
- 業務負荷軽減のためのDX
- コミュニケーション改善のためのDX
- 社内教育とキャリア支援のためのDX
- 新規事業開発のためのDX
課題解決とともに、具体的な技術やソリューションを解説します。
業務負荷軽減のためのDX
煩雑な繰り返し作業の自動化により、ルーティンワークの負荷を軽減できます。作業時間を短縮して残業をなくすことで、従業員満足度の向上に貢献します・
具体的なソリューションとしてはRPAのほか、総務・人事といったバックオフィス向けのSaaS、営業向けのSFAやCRM、マーケティング部門向けのMAなどがあります。また、製造業におけるIoTを使ったスマートファクトリーなども効果的です。ノーコード/ローコードのプラットフォームも業務効率化に役立ちます。
業務負荷軽減のDXは多くの企業で取り組んでいる分野であり、今後は生成AIの採用が進展するでしょう。実際にアメリカでは生成AIのビジネス活用が進んでいます。日本は、まだビジネス分野における生成AIの活用は定着していません。音声認識による会議の議事録の書き起こしや要約、ブロク記事作成などにおいても実現可能性があります。
コミュニケーション改善のDX
テレワークの浸透により、デジタルコミュニケーションツールの活用が拡大しました。自宅勤務の閉塞された環境では、孤立感が募りやすくなります。メンタルヘルスに不調が生じると、離職にもつながります。
在宅勤務の抱える問題解決のために、コミュニケーションを支援するデジタルツールが役立ちます。組織に対する参画意識を高めて安心感をもたらすことで、職場環境における満足度を向上させることが可能です。
コミュニケーション改善に役立つDXとしては、チャット、SNS、オンラインミーティングを行うビデオツールなどがあります。情報を共有して、インタラクティブかつリアルタイムのコミュニケーションを実現しています。ホワイトボード、プロジェクト管理などのツールもコミュニケーション改善に役立ちます。
「ovice(オヴィス)」のようなバーチャルオフィス、VRチャットといったメタバース志向のサービスも登場するようになりました。
社内教育とキャリア支援のためのDX
コロナ禍以降、テレワークとともにオンライン化しつつあるのが社内研修です。法人向けの資格取得のためのeラーニングなど、キャリアアップを支援するツールもES向上に役立ちます。注目を集めるリスキリングもそのひとつです。
オンデマンド型のオンライン研修は、時間の制限なく受講できる点で便利です。チャットやメッセージで質疑応答できるインタラクティブな機能も備えています。ITからビジネススキルまで、興味のある分野を網羅的に学習可能できるサブスクリプション型で提供されているサービスもあります。多くのオンライン教育ツールでは、学習管理システム(LMS)を使って進捗管理ができます。
自社の課題に合わせたオリジナルコンテンツを作成できる有料サービスもあり、学習意欲の高い従業員のために活用するとよいでしょう。
新規事業開発のためのDX
モチベーションの高い社員に対しては、DX推進による企業全体の業務効率化プロジェクトや、AIなどの最先端技術を使った新規事業開発が大きな自己実現につながります。動機づけ要因に焦点を当てたES向上の施策であり、ビジネスとしても大きな意義があります。
リスクやプレッシャーがあったとしても、戦略的なプロジェクトへの挑戦、参画、目的の達成を通じて、従業員は高い満足を得られるのではないでしょうか。次世代のリーダーを育成する貴重な機会になります。DX推進が、社員の士気を高めることに貢献します。
中小企業の経営者として何をすべきか
中小企業のメリットには、フットワークが軽いこと、経営者と現場の距離が近いことがあります。この利点を活かすべきです。個々の従業員の要望を対話によりピックアップしながら、経営者みずから柔軟に方向性を定めていきます。
当たり前のことになりますが、従業員のひとりひとりの考えや価値観は異なっています。しかし、こうした多様性を理解していない経営者が意外に多いものです。
たとえばDX推進の目的や意義について「何度も言っているから分かっているだろう、共通認識があるだろう」という過信は避けなければなりません。話を聞いていても理解していないぐらいに考えて、何度も目的や意義を根気強く語り続けることが大切です。
同時に経営者の傾聴する姿勢も大切です。経営者が従業員に向かい合う姿勢が、満足度を高めます。意見を聞いても最後は持論を展開するような態度は禁物です。「社長の聞く姿勢は見かけだけ、何を言ってもムダ」という諦めと脱力感を浸透させることになります。
会社が変わろうとするのであれば、経営者自身がまず変わるべきです。
DX×ES推進の進め方
最後に、DX推進とES推進を連動させる進め方ですが、ポイントは以下になります。
- 社内プロジェクトとして組織化してスタート
- ボードメンバーを招集して、事前のヒアリングを行う
- DX推進の意義を従業員視点から再定義する
- コンセプトだけでなく新制度の設立など明確に打ち出す
- 1か月、四半期、年間、3年などの計画を立てる
- それぞれの期間で結果報告を行い、次の循環サイクルに活かす
従業員満足度を高める試みを経営者からのトップダウンで行うと、参画意識が鈍ることがあります。経営者や幹部はファシリテーターとして参加し、具体的な計画は現場からのボトムアップで進めるとよいでしょう。 報告の際には、社内の報告だけでなく、プレスリリースやIRなどを通じて社外に報告を行うと、DXとESに対する取り組みが対外的にも意義のあるものになります。
まとめ
中小企業の経営者は、DXとES(従業員満足)、ESとCS(顧客満足)、そして顧客満足度と業績のように、互いに影響を与える可能性があることを認識し、相乗効果をねらうことが大切です。社内はもちろん社外のステークホルダーと連携して結果を共有することで、外部からの自社の評価と信頼を高められ、IRやPR(広報)の効果が期待できます。
この記事を書いた人
KJ@DXコラム編集長
エンジニア出身で現在は現在は営業窓口全般を担当しています。 お客様とのファーストタッチのタイミングからスピーディーに技術的な原因とその対応を行います。 DXの取組に興味を持たれたお客様と一緒になってゴールまで走り抜ける経験を2025年まで培っていきたいと思っています。 このコラムで2025年までの軌跡をお客様と作っていければと思っております
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