2023.04.11
リスキリングとは?DX推進を成功させる人材育成の考え方を解説
AIを筆頭とした先端技術がめざましい発展を遂げ、ビジネス環境が大きく変わりつつあります。リスキリングは、変化の激しい時代の人材育成に求められる人材育成の考え方のひとつです。さまざまな人材育成のキーワードとともに、リスキリングの効果や進め方を解説します。
技術を習得し直す「リスキリング」とは
変化の激しい時代には、蓄積したスキルが陳腐化して使えなくなりやすいものです。人材採用に関していえば、高度な技能を持った人材を採用しても、そのスキルが通用しなくなる場合が考えられます。
このような状況を踏まえてDXの人材教育において「リスキリング」が注目されてきました。リスキリングは英語でRe-skillingと記述し「Re」は「再」の意味です。スキル(技能)の「再習得、学び直し」を示しています。
リスキリングの目的は、新たなスキルの再習得により人材自体を刷新し、組織における再配置を行うことで変革を促すことにあります。
リスキリングが登場した背景と動向
リスキリングという言葉が広く使われるようになった契機は、2020年、50周年を迎えたダボス会議でした。「リスキリング革命」として「2030年までに10億人のリスキル」が提唱されました。また、2022年10月には岸田首相が臨時国会の所信表明において、個人のリスキリングの支援に対して5年で1兆円を投じることを述べました。
現代はVUCAの時代といわれます。VUCA は、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉であり、先行きが見えない時代であることから柔軟な対応が求められます。人材育成にも変化が問われます。
IT関連の深刻な人材不足から、リスキリングはDX推進のキーワードとして重視されるようになりました。
DX時代の人材育成のキーワード、リスキリングとの違い
ところで、人材育成に焦点を当てると、これからの時代に重要なキーワードにはリスキリングを含めて以下の4つがあります。
- リスキリング
- アップスキリング
- アンラーニング
- リカレント教育
経営者として上記の4つのキーワードを押さえておくべきです。しかし「どの人材育成が最も有効か」という優先順位の比較が重要ではありません。それぞれの人材育成が必要とされている理由を理解し、自社に合わせて実施するとよいでしょう。
リスキリングとの違いを明らかにしながら、それぞれのキーワードを解説していきます。
アップスキリングとリスキリング
まず、アップスキリングとリスキリングの違いを取り上げます。
アップスキリングは、現在持っている専門知識や能力をさらに高めることであり、たとえばプログラマーが自身の得意な言語による機械学習を学んでAI活用に携わることは、アップスキリングといえます。一方で、総務部門のまったく開発経験のない担当者が、ノーコードツールを使ってシステム開発を行うような場合はリスキリングです。
どちらもDX推進には重要です。しかし、リスキリングは現在の職種にとらわれないダイナミックな変化を視野に入れています。
アンラーニングとリスキリング
次にアンラーニングとリスキリングの違いですが、「学び直し」という意味では共通しています。あえて違いを明確にすると、アンラーニングはDX以外の分野でも用いられ、主に新たな技能習得のために、これまで培ってきた知識や技能を捨てることに焦点が当てられます。一方で、リスキリングはDX関連の新たな技能習得を重視します。
過去を捨てる(アンラーニング)か、将来に必要な技術を習得する(リスキリング)という違いといえるでしょう。
リカレント教育とリスキリング
リカレント教育も人材育成でよく聞かれるキーワードではないでしょうか。リカレント(recurrent)は「循環する」という意味で、学校教育の以後、新たな知識習得が必要になるタイミングで学習し、持続的に能力を磨いていくことを示します。いわゆる生涯教育のひとつです。
リカレント教育は「人生100年時代」と呼ばれる高齢化社会を背景に、DXに限らず個人の人生を豊かにするために求められます。一方で、リスキリングは企業主体でDXにフォーカスした教育を行います。
しかしながら、高齢者雇用やダイバーシティなど企業の社会的責任に目を向け、従業員の豊かな生活の実現を標榜するのであれば、リカレント教育について経営的な視点から考えておく必要があります。
リスキリングによって得られる3つの効果
リスキリングはDXの人材教育分野で意義があります。リスキリングによって得られるコスト削減、業務効率化、新規事業創出の3つの効果を解説します。
採用コストの抑制
人工知能分野の分野ではデータサイエンティストをはじめプロンプトエンジニアのように、新たな職種が次々と生まれています。先端技術のスキルを持った人材が確保できれば、企業にとっては大きな優位性になりますが、優秀な人材の採用は非常に困難です。大企業や著名なベンチャー、あるいは海外の企業に人材を奪われてしまうことになりかねません。
したがって、多大な費用をかけて新たに人材募集と採用を行うのではなく、従業員に新たなスキル習得を促します。現在の従業員のパフォーマンスを向上させることで、採用コスト抑制の効果が生まれます。
最新技術を使った業務効率化
これまで業務効率化を目的としたDXは、情報システム部門や外部の協力会社に委託する場合が多かったのではないでしょうか。しかし、それぞれの部門の担当者がリスキリングによってローコードやノーコードのツールを使いこなせるようになれば、業務フローの自動化などのDX推進を現場で行えるようになります。業務を熟知した現場の従業員が先端技術を駆使することにより、作業時間の短縮や負荷軽減などの業務効率化を実現します。
新たなビジネスの創出
現在のDXは業務効率化のような、いわば守りのDXが主流です。しかし、リスキリングによって、新たなビジネスの創出といった攻めのDXの展開にも可能性が開かれています。先端技術をいち早くキャッチアップして、その技術を使ったサービス展開を行うことで、競合他社に先駆けて市場を切り開くことができます。先行者利益(ファーストムーバーアドバンテージ)を獲得する戦略的な意味において重要です。
リスキリングの3つのポイント
リスキリングによる新たなビジネス創出の可能性に触れましたが、経済産業省の「DX推進指標」にもある通り、最終的にDXがめざす理想はビジネス創出です。そのための技術の再習得にリスキリングは位置づけられます。したがって、たとえば「Excelの関数を使えるようになる」「SaaSの使い方を覚える」といったITリテラシーを底上げするような基礎の習得は、厳密にいえばリスキリングといえません。
このような前提を踏まえてリスキリングの3つのポイントを解説します。
リスキリングはあらゆる部門に必要
オフィスワークにおいてDXと無関係の部署はなくなりつつあるといっても過言ではありません。リスキリングの本質は、あらゆる部門においてDX推進に関わる人材を育成することです。情報システム部門やIT部門に限らず、総務部門、営業部門、販売促進部門の人材においてもリスキリングが必要になります。「ITを活用しない部門だからリスキリングとは無関係だ」と考えずに、再習得すべきスキルを考えることがポイントです。
従業員の主体的な関わりが求められること
これまで業務効率化のための取り組みがあったかもしれませんが、情報システム部門に任せて、ユーザーの立場だったのではないでしょうか。しかし、個々の従業員がリーダーシップを発揮して先端技術を新たに習得していきます。「総務部門の担当者が申請と承認の処理を自動化するアプリ開発を行う」「販売部門の担当者が在庫管理を可視化するためのシステムを構築する」などのケースが考えられます。
ビジネス創出など攻めのDXは経営者主導で
新規事業開発や新市場への参入はリスクをともなうため、戦略的な投資が求められ、短期的には結果が出しにくい領域です。ビジネス創出のリスキリングでは、先端技術の理解はもちろん、起業家精神やビジネスセンスなどの習得が求められます。
業務効率化のDXを実施している企業はたくさんありますが、ビジネス創出の攻めのDXまで展開している企業は希少です。しかし、こうした取り組みこそが日本の産業を活性化するものであり、経営者主導で全社的に実施すべきではないでしょうか。業務効率化だけでなく、ビジネス創出の視点からDXをとらえることが大切です。
リスキリングの4つの進め方
リスキリングを進めるにあたっては、以下の4つのプロセスで行うとよいでしょう。
- スキルの選定
- 教育プログラムの選定
- 人材育成
- 業務における実践と成果の評価
まず自社の注力する分野にしたがって必要なスキルを選定し、次に外部の教育プログラムからトレーニングを選びます。そして実務において学んだことを実践した上で成果を評価します。
あらゆる人材育成にいえますが、実務において成果を出したかどうかという観点から評価することが重要です。このとき数値指標を定めると成果と評価の測定が明確になりますが、定量的な把握が困難な場合が少なくありません。また、先行投資という意味では、短期間ではリスキリングの成果が見出せないこともあります。
従業員のモチベーションを維持するためにも、経営者による習得したスキルの意義づけが大切です。
リスキリングを成功させるには
リスキリングを成功させるには、以下の3つが重要になります。
- 再習得を行うスキルの明確化
- カリキュラム実施の徹底
- 学習環境の整備
スキルを絞り込まずに進めてしまうと現場の目的意識があいまいになり、せっかく学んだ新たな技術が実務に反映されなくなります。リスキリングは自主的な参加者や任意として募るのではなく、経営戦略や部門のミッションとして徹底することが大切です。
また、DX推進に限らず新しい事業開発にありがちなパターンですが「利益を生まないムダなことをやらされている」という風潮が高まることにより、チャレンジ精神を失速させてしまうことがあります。学びを持続させるために、学習環境の整備が必要です。
まとめ
どれだけ技術が進化しても、ビジネスを遂行するのは人間です。新たな技能を習得して従業員自身が変わることが、会社を変える原動力になります。中小企業の経営者としては、自社のビジョンをしっかり示した上で人材育成の方法を具体化すべきです。
経済産業省では、リスキリングをDX推進のための方法のひとつとして推奨しています。急速に技術や社会が変わりつつある現在、産業全体の変化を見据えた上で、まず自社の人材に必要なスキルを明確にすることが大切ではないでしょうか。
この記事を書いた人
KJ@DXコラム編集長
エンジニア出身で現在は現在は営業窓口全般を担当しています。 お客様とのファーストタッチのタイミングからスピーディーに技術的な原因とその対応を行います。 DXの取組に興味を持たれたお客様と一緒になってゴールまで走り抜ける経験を2025年まで培っていきたいと思っています。 このコラムで2025年までの軌跡をお客様と作っていければと思っております
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